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昨年の8月に引越しをして、新しい暮らしを始めている。「隣の学区」くらいの近場だというのに、すぐ近くを通る鉄道の響きや、投げ込まれる広告の違い(というか、投げ込まれない)に、未だに新鮮味を感じる。
 未舗装の路地を挟んだ向かいの一軒家には、ベトナム(と思われる)の女の子たちが数人のシェアで暮らしており、その南隣には中華人(と思われる)の男の子たちも暮らしている。つい半月ほど前には、北隣にインドネシア(と不動産屋から聞いた)の男の子たちが多数入居してきた。近隣の一軒家はだいたいそんな感じで、さもなければ老人の独り住まいか、空家となっている。


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今朝、トイレに座っていると、外の路地からベトナムの女の子たちの話し声に混じって、スマホカメラの撮影音が何度も聴こえた。
 会話の内容がさっぱり判らないので、やたらと入念に何を撮っているのやらと気になっていたが、午過ぎに用事で家を出たとき、すぐにそれが解った気がした。敷地の門を出てすぐ目の前に見える向かいの窓辺に、いつもブラジャーの吊るされていたハンガーも、その奥の生活の気配もすっかりなくなっているのが見えた。
 他所へ移ったのか、国へ帰ったのか。今朝のは、生活を供にした仲間との記念撮影だったのだろう。


そういえば昨晩、夕食の支度をしていると、向かいの家から唄が聴こえた。給湯器の音に混じって、だから食後の洗い物か、シャワーを浴びながらか、機嫌の良さそうな穏やかな唄声だった。新しい暮らしへの明るい想像か、ひとつの暮らしが終わることへの感慨か。
 この国、この街で、何か良い思い出はあっただろうか。


Mar. 29, Sun., 2020

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漁業通信

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