平成二十四年 葉月

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夜中に仕事をしなけりゃならんかったで、眠い頭にちょっとウルサいのをと思い、ピロウズを回した。久しぶりに「Crazy Sunshine」を聴いた。じゃぶじゃぶと水が注ぎ込まれるような気がした。
 ああ、もしかすると、これをもっと早く、いつか聴いていれば、七月をそっくり喪うことはなかったのかも知れないと思った。


昼間の外勤の休み時間に喫茶店でメモした言葉——
「他の人と何か関係があると思い込む。そこから誤解が始まるんだ」

「幻化」 梅崎春生


Aug. 20, Mon.

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久しぶりの雨が降っていた。
 アパートの風呂場に向かう廊下の壁に、夜を固めたような真っ暗な何かがあるのが視界に入った。一瞬、飛び上がるほどびっくりしたが、向かいのアパートの灯りにかろうじて姿を具体化させていたその異物は、急な雷雨に翅を休めていた黒揚羽だった。近づいても動きは鈍く、もしかすると翅を傷めたのかも知れないし、夏の終わりにシンクロしていたのかも知れない。
 夜中に見る蝶は場違いな感じがして心が落ち着かない。子供の頃、昆虫は大概平気だったのに蛾と蝶だけは滅法苦手で図鑑の写真に触れることすらできなかったことを思い出す。揚羽ともなると、妖し気な魔性のようなものを纏っているようにも感じる。
 蛾と蝶が生物学的に分類できないということを、大人になってから、ふとした興味で調べて知った。


風呂から上がってもまだ壁に張り付いていた黒揚羽が、部屋に戻った後も気になり、コーヒーを温める前にカメラに Tri-X フィルムを込めて 4、5枚ほど撮ってきた。
 その間ずっと身動きしない様子は壁画のようだったが、日が昇ったらきっと跡形もなく消え去っているだろう。そういうものだ。


Aug. 30, Thu., A.M.

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imitated records or false memories

漁業通信

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