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傾いた西陽が差し込んで、一日でいちばん部屋が明るくなる頃、流しの上の小窓からすべり込んできた少し冷たい空気を感じて、ふと、もう少ししたら金木犀が香る頃だろうかと思った。
僕はあの香りが嫌いだ。だが金木犀に罪はない。芳香剤のメーカーがいけないのだ。
Sep. 24, Wed.
傾いた西陽が差し込んで、一日でいちばん部屋が明るくなる頃、流しの上の小窓からすべり込んできた少し冷たい空気を感じて、ふと、もう少ししたら金木犀が香る頃だろうかと思った。
僕はあの香りが嫌いだ。だが金木犀に罪はない。芳香剤のメーカーがいけないのだ。
Sep. 24, Wed.
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アルバイトに出たものの仕事はなかった。きれいな秋晴れの午後だったから、上長に願い出て早退した。カメラを持って街を歩いても良かったし、自宅へ帰って有意義な自分の仕事をしても良かった。
月曜の街は、午休み風のオフィスマンが行き交っていた。罪の味がした。
月曜、平日、東京へ行こうと思いついた。日曜は休みの、十九時には閉まる、「喫茶東京」。
「東京」を訪れるのは二度目だった。コーヒーと、セットのランチを頼んだ。食べて、新聞を読んで、ノートを開いて、コーヒーを喫みながら尾崎翠を読んだ。前にここを訪れたときの同伴が借してくれた。
傍らにやってきて一礼したご主人が、「レコードのリクエストはありませんか」と尋ねた。クラシックは聴くものの、にわか知識で咄嗟に閃く曲名もなく、辞退した。残念に思いながら、どうだろうと考え、たぶん僕はピアノ曲が好きなのだと思った。ほどなくして弦楽曲が流れ始めた。それはそれで良かった。
奥付まで読み終えて「東京」を出た。いつかの晩冬の日、二階席の閉まる十八時に店を出たビルの上の薄暮に、日が長くなったと互いに感想を漏らした。これからはだんだん、日が短くなる。
Sep. 29, Mon.
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短かった夏が終わって久しいが、アパートの階段に今でも転がっている蝉の死骸がある。蟻も来ない。鳥も来ない。塗装された鉄板の上に、在りし日の姿をそのままに。
石の都市の罪。墓石の都市。
Sep. 30, Tue.
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