平成三十年 葉月

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季節ごとの臨時のアルバイトに、十年以上通っている。年間で4期に分かれており、同じルートを出勤しても、その都度景色が変わる。空や植物の色、店の看板や、建物が更地になって思い出せなくなったりする。


B町の住宅街にある古い大きなお屋敷に、大きな白い犬がいた。大人しい気性で、吠えられたことは一度もなく、いつも鉄格子の門扉の下に寝そべっていたので、出勤の通りすがりにはいつも手を振ってみたが、反応は鈍かった。見当たらないのは散歩中か、冬場には屋内に入れてもらっているのか、そう思ったらお屋敷の玄関前の日向で丸くなっていたり、そのお屋敷の前では、通り過ぎざまにぐるっと首を廻して犬を探すのが常だった。
 今年の夏も所定の日数を勤めたが、ついに一度もその犬を見なかった。「エサを与えないでください」と手書きされた門扉の札もなくなっていた。すぐ向かいの製麺所の人たちは、きっと知っているだろう。いつも通りすがりにお屋敷の様子を首を廻して窺っていた僕は、どう見えていただろう。


Aug. 24, Fri., 2018

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