平成 二十三年 師走

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ペーパーワークでもやろうと、寒い部屋を抜け出して久しぶりの A 喫茶に居た。時刻は午後四時過ぎ。客は私だけだった。資料を持ち込んだものの、一緒に持ってきた新聞を読んでいるうちに仕事のことは放ったらかしになった。それも半ば想定はしていた。
 店のご夫婦は、調理の段取りについて口論を始めた。ランチと夕食の間で閑散としたこの時間帯、旦那さんは煙草をふかし、奥さんはおしぼりを丸める——そんな姿をよく見かける。誰も来ない平日のひとときに、ふたりはこうして擦り合わせをしながら三十年近くやってきたのだろう。私は素知らぬふうで新聞に目を落とし、存在を消した。
 長い沈黙、ワインの楽しみ方——おれには関係ないな、大マゼラン雲の接近、ニュルンベルクの訪問記、あかりが灯って、他の客がちらほら現れ始めると、店内は奥さんの明るい声と談笑のざわめきに満たされた。


お裾分けでいただいた大玉の蜜柑を素手の左手右手に渡しながら国道を歩いた。家路をのろのろと急ぐ紅白の光が眩しかった。作業は何ひとつ進まなかった。前を歩く女の子の後ろ姿を眺めながら、女の子の冬装はかわいいなと改めて思った。冬が好きだ。


Dec. 16, Fri.

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